仏語再勉強の軌跡

フランス語の本が楽しめるようにするのが今年の目標

Technical Error (9/104)

1946年12月"Fantasy"で初出版。"Reach for Tomorrow"に収録。

超伝導の理論を使用した世界で初めての発電所で事故が起きた。回転子を吊るしてある立坑を技師が見回っているときに、近隣の消費電力が予定をオーバーして、発電機が過熱、今までにない強さの電流が流れ、そして、ショートして発電機は停止した。ちょうど、その超強力な電流が流れているときに、その技師は回転子の真下にいた。
気を失って倒れていた技師は助けられ、医師の診断を受ける。一見したところ何も異常はないが、物の見え方から、持ち物、体の全ての左右が逆になってしまった。
技師は左右が逆の中で何とか生活していたが、何週間か後に、体のだるさを訴えて、再度医師の診断を受ける。彼は栄養不良で死にかけていた。通常に食べていても、人間にとって必要なビタミン等が消化吸収できない。分子量は同じでも左右の構造が違う異性体を吸収できない。したがって彼を生かしておくためにはビタミン等の異性体を作らねばならない。しかし、それには膨大なお金がかかる。
事故は勤務中に起きており、会社としては責任がある。役員会が開かれ、対策が協議された。膨大なお金を使って彼のために特別な食べ物を作ったとしても、人間の生存に必要な全てのビタミン等が現在知られているかどうかは不明。したがって、膨大なお金を使っても、彼を生かしておくことは保障できない。そして、協議の結論は、再度同じような状態を作り、技師をもとに戻すこととなった。会社の代表が万一あった場合は家族を保証することで、その技師を説得する。
そして、同じような状態を作り、真っ青な顔の技師は回転子の真下に立つ。そして発電機を過熱させ、超強力な電流が流れ、ショートして発電機は停止。補助電力で様子がわかると、技師は消えていた。
理論的責任者である物理学者は悶々と悪夢に悩まされる夜を過ごすが、ふと、技師が消えた理由に思い至る。再現は勿論、完璧ではないわけで、時間の次元が正確に再現されていない可能性がある。ということは消えた技師は、しばらくして、現れるかも知れない。
物理学者はあわてて発電所に電話を掛けようとする。床に下してある回転子をどけねばならい。何かあるところに技師が出現したら大変なことになる。
しかし、その時、物理学者は地震のような振動を感じ、天井からは漆喰が剥げ落ち、壁にはひびが入る。カーテンを開け、発電所の方向を見ると、発電所のあるべき場所には何か残骸のようなものがあるだけだった。