仏語再勉強の軌跡

フランス語の本が楽しめるようにするのが今年の目標

The Woman Destroyed

二つの中編小説と、一つの短編小説の合本です。1967年、著者59歳の出版。

* The Age of Discretion 「分別の年齢」(中編)

  60歳を越えたばかり程の夫婦が出てきますが、勿論、これは、ボーボワール自身とサルトルをイメージしています。最近、夫 (Andre) が年寄り臭くなったことが気に入らない女主人公。彼女はモンテスキューに関する新しい解釈を提示したと自信満々の本を出版した所です。自分がパスした1級教員資格を一人息子がとることを希望しているが、息子 (Philippe) は、結婚し、妻の父の勧めで政府関係の職での出世を選び、主人公とは大喧嘩。主人公は落胆し、そのことで夫との関係もまた、おかしくなる。自信作も評判が良くない。夫は実家に一人で行き、取り残された妻はすっかり落ち込む。しかし、自分の作品を読み直し、実は、斬新な試みは掛け声倒れだったと知る。最近はすっかり駄目になり、新しい考えは全て若い人のものだと夫が言っているように、自分も、老いを認めざるを得ないのかと考え直す。夫が行っている彼の実家に行くが、夫婦関係はギクシャク、溝はなかなか埋まらない。しかし、そこでいろいろあった後、結局は、心が通じあう。以下、夫婦の最後の会話です。

Ahead there were the horrors of death and farewell: it was false teeth, sciatica, infirmity, intellectual barrenness, loneliness in a strange world that we would no longer understand and that would carry on without us. . . . . We are together: that is our good fortune. We shall help one another to live through this last adventure, this adventure from which we shall not come back. Will that make it bearable for us? I do not know. Let us hope so. We have no choice in the matter. --- the end of this novella ---

著者、59歳の時点で、老いと自分の限界を感じたのでしょうか???


* The Woman Destroyed 「破壊された女」(中編)

44歳の女性 (Monique) の9月22日から翌年3月24日までの日記という形式で話が進みます。話は、あちこちに飛びますが、以下に、まとめてみます。

Monique の父親は医者で、彼女も同じ医学の道に進み、22歳の時に23歳の同じく医学の道を歩んでいた男性 (Maurice) と結婚します。しかし、結婚後は医学、その他、知的活動にも興味を失い、家庭が命の専業主婦になり、2人の娘を育て上げます。

10年前に、夫は妻の反対を押し切り、医療よりも、医学の研究のできる施設に転職します。そして8年前より数人の女性と関係を持つようになります。しかし、そのことは妻には隠し、また、妻も気が付きません。そして、長女 (Lucienne) はニューヨークで一人で生活し、次女 (Colette) は結婚します。

その頃に、妻も夫に女が居るのではないかと疑いだし、問いただすと、そうだと、夫は白状する。夫は母親が離婚と再婚をしていて、家庭の崩壊を避けたい気持ちがあり、二人の娘が成人するまで、黙っていた。事実が明白になった後も、どちらも、決定的に別れるつもりはなく、三角関係が続く。

しかし、最後の浮気の相手である38歳のやり手の弁護士 (Noellie) との関係は18ヶ月に及び、本気になってくる。妻は夫を愛し続けているのだが、夫の気持ちは完全に離れている。夫も、娘も友人も妻に就職を勧めるが、妻はOKしない。

妻はどんどん内向して、ノイローゼとなる。精神科医にもかかり、就職その他、何かすることを勧められるが、踏ん切りがつかない。そしてノイローゼは更に更に進行し、外に出なくなり、閉じこもりとなる。

夫、娘、友人、医師の勧めで、ニューヨークの長女に会いに行く。長女に自分の何が嫌いで夫の気持ちが離れたのか聞くが、ハッキリとした答えは得られず。今後どうするか踏ん切りもつかない。その間に、夫は自分だけのために借りた小さいアパートに引っ越す。浮気の相手の所に行くわけでもない。

そしてニューヨークから戻り、迎えに来た次女夫婦と食事をした後、住まいに送ってもらう。次女は泊まらず。主人公 Monique が一人そこで、閉まっている二つのドアを見つめるところで話は終わる。一つは夫の書斎、一つは夫婦の寝室である。

中沢正夫医師だったらどうアドバイスしますかね。これは極めて危ないケースです。自殺がすぐそこです。

(注1)もう一つ短編 'The Monologue' があります。元のフランス語がそうなのかも知れませんが、タイトルの独白の雰囲気を出すためか、句読点が相当省略されていて、だらだら文章で読みずらく、投げました。

(注2)'The Woman Destroyed'は、自分の母親のことをイメージしているような気もします。娘も二人だし、夫の浮気もそうですね。次女は平凡な結婚をし、長女(自分)は、超時代的なわけです。