仏語再勉強の軌跡

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153 A Trampwoman's Tragedy

第三詩集 "Time's Laughingstocks and Other Verses" 「時の笑い草」

153 A Trampwoman's Tragedy
               (182 - )

女 渡り職人の悲劇

http://youtube.com/watch?v=ciMM1C85MUQ

I

From Wynyard's Gap the livelong day,
The livelong day,
We beat afoot the northward way
We had travelled times before.
The sun-blaze burning on our backs,
Our shoulders sticking to our packs,
By fosseway, fields, and turnpike tracks
We skirted sad Sedge-Moor.

ウィニヤードの峠から 日がな一日
   日がな一日
あたしたち 北への道をてくてくと辿った、
   それまで何度も旅した道を。
お日さまの光が 背中で燃えた
肩の荷物が 突き刺すみたい
掘割り道や農場や有料道路を通り抜け
   淋しい菅沼(セッジムア)のふちを巡った

II

Full twenty miles we jaunted on,
We jaunted on, -
My fancy-man, and jeering John,
And Mother Lee, and I.
And, as the sun drew down to west,
We climbed the toilsome Polden crest,
And saw, of landskip sights the best,
The inn that beamed thereby.

二十マイルはたっぷりと 遠足したんよ
   遠足したんよ -
あたしの彼氏と、野次飛ばしのジョンと
   母ちゃんリーと あたしの四人。
お日さまが西空で傾くころに
難儀してポルドンの頂に上り、そこから見たんよ、
景色のなかで 最高の景色、
   近くに輝く あの旅籠(はたご)の姿。

III

For months we had padded side by side
Ay, side by side
Through the Great Forest, Blackmoor wide,
And where the Parret ran.
We'd faced the gusts on Mendip ridge,
Had crossed the Yeo unhelped by bridge,
Been stung by every Marshwood midge,
I and my fancy-man.

何か月も あたしたち 二人並んで歩いて来たわ
   二人並んで歩いて来たわ
あの(大森林)、ブラックムーアの広い谷間、
   そしてパレット川が流れるあたりを。
メンディップの山の背で激しい風と戦い、
橋の助けも借りずにヨウ川を渡り、
低地森(マーシュウッド)の蚊という蚊に刺されたんよ、
   あたしと あたしの彼氏とは。

IV

Lone inns we loved, my man and I,
My man and I;
'King's Stag', 'Windwhistle' high and dry,
'The Horse' on Hintock Green,
The cosy house at Wynyard's Gap,
'The Hut', renowned on Bredy Knap,
And many another wayside tap
Where folk might sit unseen.

人けのない旅籠(旅籠)が好きだったわ、わたしの男とあたしとは
   わたしの男とあたしとは
「王の雄鹿館」、高地で水の出ない「風の笛旅館」、
   ヒントック草地の「馬」の宿、
ウィニヤード峠の あの気持良い旅籠、
ブレディ丘の名高い「ヒュッテ」、
そのほかいろいろ、道ばたの宿、
   人に知られず 一夜を過ごす宿。

V

Now as we trudged - O deadly day,
O deadly day! -
I teased my fancy man in play
And wanton idleness.
I walked alongside jeering John,
I laid his hand my waist upon;
I would not bend my glances on
My lover's dark distress.

今日、あたしたちが歩いていた時 - ああ、災いの日よ
   ああ、災いの日よ! -
あたしは彼氏をからかってみたの、たわむれに
   何の気なしに 浮ついて。
あたしは野次飛ばしのジョンと並んで歩き
ジョンの手をあたしの腰に廻させた
あたしの恋人、暗い顔して苦しんでいたろう、
   でもあたし、ひと目もくれてやらなんだ

VI

Thus Poldon top at last we won,
At last we won,
And gained the inn at sink of sun
Far-famed as 'Marshal's Elm'.
Beneath us figured tor and lea,
From Mendip to the western sea -
I doubt if any finer sight there be
Within this royal realm.

こうしてとうとう ポルドン山の頂に着いたわ
   頂に着いたわ
そして日が沈む頃、宿屋に到着、世に名高い
   「高官のニレの木」の宿だった
あたしたちの眼の下に メンディップ山から西の海まで
岩山と緑の草地が広がっていたわ -
この王国の ほかのどこかに こんなに素敵な
   景色が二つとあるかしら

VII

Inside the settle all a-row -
All four a-row
We sat, I next to John, to show
That he had wooed and won.
And then he took me on his knee,
And swore it was his turn to be
My favoured mate, and Mother Lee
Passed to my former one.

長椅子に 四人がみんな並んで坐った -
   みんな並んで
腰掛けた。あたしはジョンの隣、ジョンが口説いて
   あたしを自分のものにしたように 見せようとした
するとジョンは あたしを膝の上に抱き
この女に今度愛されるのは 自分の番だ、
元の恋人さんには 母ちゃんリーが
   廻って行くさと 口走ったんよ

VIII

Then in a voice I had never heard,
I had never heard,
My only love to me: 'One word,
My lady, if you please!
Whose is the child you are like to bear? -
His? After all my months o' care?'
Gods knows 'twas not! But, O despair!
I nodded - still to tease.

するとあたしがそれまでに 聞いたことのなかった声で
   聞いたことのなかった声で
一人きりのあたしの彼氏が あたしに言った「ひと言だけ
   聞かせてもらおうじゃないか、俺の恋人よ!
お前が生みそうになっているその子は誰の子かい? -
こいつの子か? 何ヶ月も俺に可愛がられたくせに?」
神も知る、ジョンの子ではなかったの! でも、ああ絶望ね!
   あたしはうなずいたの - まだ からかいのつもりだった

IX

Then up he sprung, and with his knife -
And with his knife,
He let out jeering Johnny's life,
Yes; there at set of sun.
The slant ray through the window nigh
Gilded John's blood and glazing eye,
Ere scarcely Mother Lee and I
Knew that the deed was done.

すると彼は跳び上がり、ナイフをかざし -
   ナイフをかざし
野次飛ばしのジョンの命の血を流れ出させた
   ほんとよ、その場で、日の沈む時。
斜めの夕陽が 近くの窓から射し込んで
ジョンの血潮とどんよりする眼を 黄金(こがね)に染めたの
母ちゃんリーとあたしとが
   何が起こったのかも判らないでいるうちに

X

The taverns tell the gloomy tale,
The gloomy tale,
How that at Ivel-Chester jail
My love, my sweetheart swung;
Though stained till now by no misdeed
Save one horse ta'en in time of need;
(Blue Jimmy stole right many a steed
Ere his last fling he flung.)

あちこちの酒場で語られている その暗い物語
   その暗い物語
アイヴェルチェスターの牢獄で どのようにして
   あたいの思い人、あの恋人が絞首台にぶらさがったかの物語
今の今まで ほとほと困った時に馬一頭盗んだほかは
何一つ罪を犯したことのなかった人なのに
(ブルー・ジミーなんか、最後の縄にぶらさがる前に
   うんとたくさん 馬を盗んだというのにさ)

XI

Thereaft I walked the world alone
Alone, alone!
On his death-day I gave my groan
And dropt his dead-born child.
'Twas nigh the jail, beneath a tree,
None tending me; for Mother Lee
Had died at Glaston, leaving me
Unfriended on the wild.

そのあとあたし 世界を渡った、ひとりぼっちで、
   ひとり、ひとりぼっちで!
彼の死んだ日に あたしうめき声をあげて
   彼の子を死んだ姿で生み落とした
それはあの牢獄の近く、一本の木の下だった
取り上げる者は居なかった、だって母ちゃんリーは
すでにグラストンで死んでいて、あたしを荒野に
よるべのない女として 残していったの

XII

And in the night as I lay weak,
As I lay weak,
The leaves a-falling on my cheek,
The red moon low declined -
The ghost of him I'd die to kiss
Rose up and said: 'Ah, tell me this!
Was the child mine, or was it his?
Speak, that I rest may find!'

そして夜、あたしが力なく横たわっていたとき
   力なく横たわっていたとき
木の葉があたしの頬の上に落ちてきて
   赤いお月様が低く傾いて -
あたしが死ぬほどキスしたい彼の 亡霊が
立ち昇って言った「ああ、これだけは教えてくれ!
あの子は俺の子だったのか、それとも彼の子だったのか?
   言ってくれ! 俺が安らかに眠れるように!」

XIII

O doubt not but I told him then,
I told him then,
That I had kept me from all men
Since we joined lips and swore.
Whereat he smiled, and thinned away
As the wind stirred to call up day . . .
- 'Tis past! And here alone I stray
Haunting the Western Moor.

おお、疑わないで、あたしがその時 彼にこう言ったことを
   あたしが彼にこう言ったことを
二人が唇を合わせて誓いあって以来、
   あたしはどんな男からも身を遠ざけていたと言ったことを。
これを聞くと彼はにっこりして、かき消えていったわ、
風が立って朝を呼び起こし始めたときに・・・
- これは昔のこと! だからあたしここで一人で
西の荒野を何度もさまよい歩いているの。


*****

この詩は第三詩集 "Time's Laughingstocks and Other Verses" 「時の笑い草」の中の一つで、朗読は、Ms. Janet Mawです。

Hardyはこの詩を、自分の作品の中で、最も成功した部類と思っていたそうです。確かに、素晴らしいですね。朗読も素晴らしい。以下、Wikiです。

https://en.wikipedia.org/wiki/A_Trampwoman%27s_Tragedy

Hardyには、Hermann Lea という、心から信頼した友人がいました。彼はHardyの主たる小説や詩の舞台となった所謂Wessexを、Hardyと共に回り、案内書のような本を残しました。以下がそれで 'Thomas Hardy's Wessex' というタイトルです。


以下、Hermann Lea と Hardy についてのパンフレットです。

以下、この詩に出てくる場所や旅籠等に関するHardy自身の説明と、Hermann Leaの本の中の写真です。すでに焼失したものもあると、Hermann Lea も書いています。現在は更に100年余りたっていますので、残っていない所も増えていると思われます。残念ですが。